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STS方式による多点電極の機能評価―家兎における電気的誘発電位
人間の眼に近い大きさの眼をもつ家兎を用いて、STS方式の機能面における評価を行なっています。強膜ポケット内に多点刺激電極を埋植し、実際に網膜を貫通するような電流を流して刺激し、大脳皮質の視覚を司る領域での誘発電位(電気的誘発電位【EEP】)を測定したところ、各電極から低い刺激電流閾値(100uA以下)でEEPが記録できました。これはSTS方式による電気刺激で、視覚的に反応が得られた、すなわち、何かが見えたことを意味しています。さらに、3週間にわたり慢性的に電極を埋植し、3週後に同様の測定を行なったところ、同じように安定したEEPが得られました。
網膜刺激による人工視覚のin vivo生理学的評価
 一般に刺激電流を増大させると疑似光覚の強さだけでなく大きさも増大するため、過大な刺激は人工視覚の解像度を低下させる事になります。したがって、より質の高い視覚を提供するためには、出来るだけ低い刺激強度で網膜局所に興奮を発生させる必要があります。それによって、電極アレイの高密度化が可能になるとともに、組織損傷を避けることにも、装置の安全性と耐久性を向上させることにもつながるのです。STS式人工視覚に用いる刺激では、網膜を内側に貫くパルス電流(内向き通電)と外側に貫くパルス電流(外向き通電)が組み合わされます(2相性刺激)。組み合わせ順、パルス幅、電流値、パルス頻度などの刺激パラメータは、網膜内にある様々な神経細胞に異なる作用をもたらすため、どのような刺激パラメータを用いれば効率的な網膜の刺激が可能なのかを調べなければなりません。
 我々は、視細胞変性ラット、家兎、ネコなどを用いて、STS方式で様々なパラメータの電気刺激を網膜に与え、その反応を上丘、外側膝状体、視覚野などの視覚中枢から電気生理学的に記録しています(例:下図1)。そして、得られた中枢の反応の広がりや閾値のデータを元に、安全で効率的な網膜刺激パラメータをデザインするだけでなく、STS法によって網膜神経回路がどのように働いて、どのような視覚情報を脳に送り出しているのかを研究しています。さらに、多点化した試作電極の機能的側面を評価するため、多点STSに対する皮質応答の時空間特性を、電位感受性色素を用いた光学計測法や皮質誘発電位のマッピング法(例:下図2)により解析しています。
図1.単相STSパルスに対して視細胞変性ラット上丘から記録した誘発電位の刺激強度ー反応特性
内向き通電(A)の方が外向き通電(B)より低い刺激強度で大きな誘発電位が発生している。また、同じ電荷量(nC)の刺激であれば、刺激パルス幅が短いほど大きな誘発電位が得られる。これは、反応の大きさが電流量に依存していることを示している。この性質と潜時の短さから、STS方式は網膜神経節細胞を直接興奮させている可能性が高い。
図2.STS方式に対する家兎皮質応答の時空間解析
単発STSに対する皮質誘発電位を前後9 mm,内外側6 mmの領域から多点計測し、潜時5 msec(左上枠)から60 msec(右下枠)まで5 msecごとに各場所における電位をカラーマップ化したもの。潜時30,35 msecのマップ(中央の2枠)で皮質局所に興奮が起こっていることが判る。